New Orleans

話が長い

明るい未来

仕事が完全リモートワークに切り替わって早2ヶ月、非常事態宣言は解除されて久しいが業務形態が戻る気配は未だ微塵もなく、日々の在宅勤務のお供と言ったら何はなくともコーヒーである。豆を挽いて、ペーパー・フィルターをセット、細口ポットで「の」の字を描きつつ抽出などというしち面倒くさいことは当然せず(何を隠そう自分は「丁寧な生活」アンチ)、もっぱらインスタント派。お気に入りはAGFの「ちょっと贅沢な珈琲店」というやつのスティックタイプで、これがまあ美味いのである。初めて飲んだときには文明の進歩もここまで来ちゃったかあ、などと唸ってしまった。ここで勘違いされてしまうと困るのでいっちょ申し上げておくが、自分はコーヒー通でもなければグルメでも美食家でもない。だからもしこの記事を読んで「なるほどインスタントコーヒーではこれが美味しいのだな」と買いに走り実際に飲んでみるようなチャーミングな狂人がいたとして、その人が飲んでみたらさほど美味しくなかった……という事態に陥るようなことがあっても、自分は「ごめんね」くらいは言うかもしれないが一切責任は取りません。まあ参考までに一応書いておくと自分はコンビニのコーヒーならファミマ派です。

在宅勤務中は3時のおやつと共にこいつをホットで淹れてガブガブ飲むのが日々のルーティーンと化していたのだが、いかんせん今くらいの時季になってくるとホットコーヒーが暑くなってきた。しかし案ずることなかれ、文明の進歩を体現せしこの「ちょっと贅沢な珈琲店」スティックタイプは、何とアイスコーヒーを作ることもできるのだそうな。パッケージ側面記載の「おいしい飲み方」曰くホットコーヒーを淹れる要領でまずグラスに粉末、次いで湯を注ぐ。ポイントはこの湯を少量にすること。粉末が溶けるまでかき混ぜたら、あとは氷をグラスいっぱいにぶち込み、冷えて好みの濃さになったところで完成、と。なるほど簡単である。が、実際作ってみるとひとつの問題にぶち当たる。ちょっとの湯で淹れたコーヒーに氷を落とすと、氷がボチャン、とコーヒーに落ちて、滴が跳ねるのである。

これは大変な問題であって、まずもってその折に身につけている服に滴が跳ね、シミとなる危険性がある。薄給から何とか捻り出したカネで吟味に吟味を重ね選び抜いた服にシミがつくなどは言語道断、1%のリスクも許容の余地なしというわけで、そこらにあった布巾など盾にしてみるも、真っ白だった布巾にぽちと茶色のシミがついた有様は何とも忍びなく、なればと今度は皿を盾に、隠しきれない下半身に滴が跳ねないよう気をつけながら恐る恐るポチャンと氷を落としてみて、部屋にひとりへっぴり腰で盾持ちグラスと格闘する己の姿をふいに意識、何やらとんでもなく惨めな気持ちになる。気分転換にコーヒーを飲もうとしているのに、いちいちこんな気分にさせられては堪ったものではないし、仕事にも支障をきたす。仕様がないので皿を盾にするのをやめ、すんと取りすましつつコーヒー面と氷の距離をできる限り最短となし滴が跳ねるにせよその跳弾距離を短く・たとい跳ねたとしてもグラスの内面でカバーされ衣服に被害のないようそーっと氷を落としたところ、思惑通り跳ねた滴は全てグラスの内面にとどまっていたがグラスよりもコーヒー面及び氷に近いもの、すなわち氷を掴む指に滴が跳ね「熱ちっ」となった。その折は涙目になるくらいで済んだものの、だからといって次も無事という保証はなく、気分転換のためにアイスコーヒーを飲むたんびに大事な指を大ヤケドの危険に晒すわけにはいかぬ。

どげんかせんといかん、つーことで、思いついたのが空のグラスに予め氷を入れておくという逆転の発想である。 液体物に氷を入れようとするから滴跳ねが起こるのだ! 手順を逆にすればよいではないかハッハー! 我、あったまいー! と自身の機略縦横っぷりにムシャブルイなどしつつ氷の入ったグラスに粉末を入れて、湯を注いだところ妙なことに気がついた。

何か、様子がおかしい。いつもだったら湯を注ぐだけで粉末は自然に溶けてかき混ぜる手順も飛ばしていいくらいなのに。予め入れておいた氷の角に引っかかった粉末がちょっと濡れただけのダマとなって、あっちこっちで何とも不愉快に滞留している!!

急ぎ、応急処置として万物よ溶けろとグルグルグラスをかき回してみるも虚しく、出来上がったソレはダマになったコーヒー粉末の舌触りもおぞましき、端的に申し上げてクソまずいシロモノであった。

パッケージ側面にて「おいしい飲み方」と豪語しているだけある。やはり「湯、それから氷」という手順には歴とした理屈があったのである。



お手上げだ。もう何も思いつかなかった。自分はこれから、暑い時分にも汗をだらだらかいて犬のように舌を出しながらホットコーヒーを啜るか、さもなくば指が「あっっっちッッッ」となる危険性と隣り合わせに、あるいはお気に入りのシャツにぽちと一点コーヒーのシミがつくリスクと皿の盾持ちへっぴり腰にて無様に戦いながら、アイスコーヒーを拵えるしかないのである。科学の発展がなんぼのもんじゃい、人類はアイスコーヒー一杯心安らかに淹れられんではないか。それともこんな問題にぶっつかっている愚か者は自分くらいなのか。世の茶店経営者は何やら独自の秘法によりこのリスクを回避しているのか? お客様の中にキャッフェのオーナーはおりませんか?

でもこんな日常のみみっちい「どうしよう」もスマートに解決できないなんて人類ってまだまだ伸び代いっぱいだよね。未来が楽しみになっちゃうよね。それはそうとマジで上記問題に対して有用な解決策・回避策をお持ちの方がいらっしゃいましたら、キャッフェのオーナーでなくてもよいので自分にご教授ください。かしこ。